日本と中国漢方そのルーツは同じ
日本の漢方と、中国漢方はどう違うのか。そんな疑問をもっている方もいらっしゃると思います。日本と中国の漢方の共通点は共に中国の古代医学をもとにしています。漢方は五、六世紀に日本に伝えられてきたとされています。以来、
日本と中国では、一つの医学がそれぞれ独自の発展過程をたどることになりました。
もともと漢方という言葉は日本語で、中国では中医学といいます。ただ、中医学という言葉は一般的でないため、私たちは中国漢方と呼んでいます。
日本と中国の漢方が際立った違いをみせたのは、江戸時代の中頃だと考えられています。当時、日本の漢方医師たちは、後漢の時代に作られた「傷寒論(しょうかんろん)」と「金匱要略(きんきようりゃく)」という古典を教科書として、理論よりも実践を重んじる医学を主張したわけです。
これに対して、中国では「傷寒論」だけでなく、さらに古い「黄帝内径(こうていだいけい)」から基本的な理論を学び、各時代の医療研究の成果を取り入れながら、理論と実践を両輪とした医学体系を発展させてきました。
もう少し具体的に言うと、首のうしろが強張るといえば葛根湯(かっこんとう)というのが日本漢方の処方の出し方です。つまり、症状と処方がそのまま結ばれています。
中国漢方の場合には、症状がでた原因を考えた上で治療方針を決め、有効な処方を選びます。首のうしろが強張るといっても、葛根湯はあくまでも選択肢の一つでしかなく、一人一人の病状に合わせて、薬の選択はもっとも柔軟におこなわれます。
中国漢方の基本となる二つの考え方
中国漢方をより深く理解をいただくために、その特色を要約して紹介したいとおもいます。古代の中国人は天と地、男と女、昼と夜といったように、二つの対になる要素で自然界の事柄を解釈する考え方である陰陽説を重んじました。
中国漢方では人体の生理や病気の発生は人体の陰陽のバランスが崩れた結果とみています。五行説は、自然界にあるものを五つの基本要素(木・火・土・金・水)に分けて、すべての事象をその相互関係の中で、説明する考え方です。
中国漢方の五臓(肝・心・脾・肺・腎)の働きは、この五行説であらわされます。
五行の配当表をみてください。肝を例とると、「関連の深い臓器は胆、肝の働きが低下すると、筋肉のけいれんが起こりやすく、目に症状があらわれ、イライラと怒りっぽくなる。
酸味のある食べ物は、適量なら肝を養う」と読むことができるわけです。この陰陽五行説は、紀元前後の古代中国で確立された考え方ですが、今日の中国漢方でも、この論理は生きています。
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五行 |
五臓 |
五腑 |
五竅 |
五主 |
五志 |
五味 |
木 |
肝 |
胆 |
目 |
筋 |
怒 |
酸 |
火 |
心 |
小腸 |
舌 |
血脈 |
喜 |
苦 |
土 |
脾 |
胃 |
口 |
肌肉 |
思 |
甘 |
金 |
肺 |
大腸 |
鼻 |
皮 |
悲 |
辛 |
水 |
腎 |
膀胱 |
耳 |
骨 |
恐 |
鹹 |
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中国漢方で言う五臓は、西洋医学で言う内蔵と少し違い、より幅広い働きを考えています。そして、五臓全体は互いに協力したり、抑制し合ったりしながら、生命を維持していると考えています。
したがって、体の不調や病気の診断は、常に内臓全体のバランスの崩れを見つけ出すことが必要となり、西洋医学のように内臓にも影響が及びます。
ですから、中国漢方の治療の基本は、五臓のバランスを調整し、体が本来持っている自然治療力を高め、健康の回復をはかるということになります。
独自の診断学で病気の本質をさぐる
もう一つ、中国漢方を特徴づける「治療求本」という大切な考え方があります。これは、表面に現れる症状だけで病気を判断することなく、病気の本質をさぐり出して治すという意味です。
その本質をさぐり出す手段として、中国漢方は舌診や脈診などさまざまな診断(弁証)法をもっており、患者さんから引き出した情報を総合的に分析した上で、治療方針を立てます。
さらに近年の中国漢方には、西洋医学の良さを取り入れながら、より高い医学体系を目指そうという、中西医結合といわれる新しい動きもあります。伝統を大切にしつつ、新しいものをどんどん吸収していただくエネルギー、それも中国漢方の大きな特色のひとつといえます。
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